身体にいい温熱環境

(文/小池一三)

モンシロチョウ

今、鹿児島シンケンの迫英徳社長から依頼を受け、住まい絵本を作っています。題名は『ぼくんち』、取り掛かって 2 年近くになります。
ようやく絵が揃い、わたしの方で文を綴っているところです。
その表紙の見返しページに、絵本を象徴する生き物としてモンシロチョウを取り上げました。
この蝶は、体温が 26℃を超えないと飛べません。成虫になって10〜15日間で寿命が尽きますので、オスはこの間に相手を見つけ子孫を残さなければなりません。飛べなければ相手を見つけられません。
そのエネルギー源は、太陽熱と菜の花などの植物の蜜です。
では、太陽熱をどのように取り込むかというと、翅(はね)で受熱し、それを体感に向けて放射し、体温を温めるほかありません。つまり、この蝶は太陽が照らないと生きていけない蝶なのです。

「モンシロチョウは、ぜんまいのような触覚を器用にくるくるとのばして、菜の花の蜜をすう。はねをとじているとき、はねの背なかに太陽熱を受けて、その熱を体幹に放射して温めエネルギー源にしてるんだって。モンシロチョウのカラダのしくみは、どうなっているんだろう?」
赤とんぼ

調べてみたら、モンシロチョウだけでなく赤トンボも同じです。
北原白秋は、赤トンボは竿の先に止まると歌いましたが、よく見ると、止まっている向きは太陽に向けて同じ角度をとって止まっています。

変温動物にとって、太陽は命の綱なんですね。
二つの昆虫は、広い大空の下、太陽を浴び、食料とする野原の存在を欲しているのです。
コンクリートで被膜される都市で、これらの昆虫が消えたのは、むべなるかなです。

ヒトのからだ

ではヒトの身体はどうか? ヒトの体温は、脳に組み込まれたサーモスタットの働きにより、ほぼ37℃になるよう調節しています。その身体の大部分は液体が占めています。人体解剖は液体を取り去った屍体解剖です。三木成夫は、このやり方では本当のことは分からないといいます。

人体水分構成と成人一日の水分排出量

ヒトは安静状態でも、筋肉、肝臓、脳、心臓、腎臓などから一定の熱が発生され、それによって体内の熱の発生と、発生した熱の外部への放散のバランスをとっています。
水分が乏しくなった高齢者(50%)の熱中症対策に、水分補給が必要なのはこのためです。
エアコンによる強い気流で身体を温めたり、冷やしたりするのも好ましくありません。二つの昆虫が、放射熱によって、体幹に熱を伝えているように、やわらかく、じわーっと涼暖すべきです。