続×5 夏暑く、冬寒い家からの脱却をめざして!
びおソーラーの松原です。
「夏暑く、冬寒い家からの脱却をめざして!」の投稿も一応最終回となります。8月から改修工事を行ってきた義兄の家は、無事に竣工して先日引き渡しが行われました。工事の過程を5回に渡ってレポートしてきましたが、どのような結果が得られたのか報告します。
改修前の家は、間取りの関係から閉鎖的な雰囲気でしたが、改修後は明るく開放的な家に生まれ変わったと思います。設計、施工を担当していただいた(株)造居・小澤さんの細部にまでものすごく気を配った丁寧な仕事のお陰です。
「冬寒い家」は改善されたか?
義兄から私への依頼は「夏暑く、冬寒い現状を何とかしてほしい」というものでしたので、これを改善するために断熱改修とびおソーラーの導入を実施しました。工事が概ね完了し、引き渡しまでの間に温熱実測を行ったので、その結果を見てみましょう。
① 外気温度・外気湿度 ② 集熱パネル内温度 ③ リビング温度・湿度 ④ 寝室温度・湿度 ⑤玄関温度 ⑥ トイレ温度 ⑦ 洗面所温度 ⑧ サンルーム温度
測定期間:2022年12月3日~13日
測定方法:温湿度ロガー・温度ロガーによる計測(記録間隔:15分)
計測期間(2022.12.3~13)の温度は上図のように変化していました。天候による集熱温度(赤線)の変動はありますが、室温(リビング、寝室、トイレ)は、穏やかな変化を繰り返していました。
【計測期間中の最高・最低・平均温度】
外気温 最高:17.2℃ 最低:5.5℃ 平均:10.9℃
集熱パネル内温度 最高:63.6℃ 最低:5.2℃ 平均:19.4℃
リビング温度 最高:22.9℃ 最低:13.9℃ 平均:17.2℃
寝室温度 最高:21.4℃ 最低:12.3℃ 平均:15.2℃
トイレ温度 最高:19.9℃ 最低:13.5℃ 平均:15.8℃
〈12.5~12.7 詳細解説〉
12月5日は終日曇りの天気であったが、気温は17℃まで上がっていた。前日の4日が晴れ時々曇りで集熱が出来ていたので、室温は16℃程度を保持した状態で5日午前0時を迎えている。集熱温度は一時50℃近くまで上がったものの天候の影響で急落する事もあり不安定な状況にあった。リビングの室温は午前0時に16.3℃で午前8時の時点で15.1℃まで下がったが、午前10時30分頃から集熱運転が始まって室温が上昇。14時頃にピーク(17.7℃)を迎えた。その後は徐々に温度が下がり6日午前0時において16℃であった。寝室の室温は5日午前0時の時点で14.8℃。日中の最高温度は16.5℃で、リビングとの差温は1.2℃であった。
12月6日は深夜から午前6時頃まで曇りであったが、以後はよく晴れた。ただし気温は前日ほど上がらず14.7℃が最高気温であった。この日は日照条件が良かったので午前8時半頃から集熱運転が始まり、午後4時頃まで続いた。最高集熱温度は午後12時で56.8℃。(外気温との差温:42.4℃)好調な集熱のお陰でリビングの室温も20℃超まで上昇した。リビング南に位置するサンルームは、午前中は密閉された状態になっていたので室温は32.2℃まで上昇していたが、午後1時半頃にリビングとサンルームを仕切るサッシを開放したところ、溜まっていた熱がリビング側へ移動し、リビングの室温を22.9℃まで上昇させた。このような効果により日没時においても室温は20℃を保持しており、7日午前0時において17.3℃であった。寝室の室温はリビングより-2~-3℃で推移していた。
12月7日は晴れ時々曇りの天気で最高気温12.9℃。午前8時半頃から午後1時半頃までは順調に集熱できていたが、その後は雲が広がって温度が下がり、午後2時半頃に運転を終了している。リビングの室温は20.7℃まで上昇したが、前日のようなサンルームの開放も行われなかったので、それ以上の変化は見られなかった。寝室はリビングより-2℃で推移していた。
今回の計画では、既存建物の構造的制約により蓄熱部を設ける事ができなかったので、室温の安定化と保持について若干不安視していたのですが、データを見る限り集熱時の室温急上昇などは起きておらず、室温の保持についても15分~30分でー0.1℃くらいの緩やかな低下に抑えられていました。
集熱は運転時間と温度が重要!
集熱運転は、その日の天候に左右されますが、計測期間内は比較的晴れの日が多かったので、午前8時半頃から集熱空気の取入れが始まり、お昼12時にピークを迎えて、午後4時頃に終了するという感じで、放物線を描くような温度変化で運転していました。最高集熱温度は、冬至の太陽入射角に合わせるように集熱パネルを設置角度60°で取り付けているので、パネル単体ながら外気温+47.7℃まで上昇させる事が出来ました。(12/10 午後0時 外気温:15.9℃、集熱温度:63.6℃) 空気集熱式ソーラーの世界において最高集熱温度で性能評価したがる人がいるのですが、瞬間的なこの値には大した意味はなく、集熱運転した時間とその時に得られた温度の方が重要になるのです。目安として集熱温度40℃以上が4時間(午前10時~午後2時)続いたならが暖房に必要な熱量として十分なものが得られていると言えます。12月6日のデータでは午前8時に集熱運転を開始し、9時15分頃から集熱温度が40℃を超えました。午後0時に最高集熱温度56.8℃を記録。(外気との差温:42.4℃)40℃以上の集熱は午後3時まで続き、午後4時15分頃に終了しました。つまり40℃以上の集熱時間が5時間45分あったという事です。一方で終日曇り空だった5日は、トータルで1時間15分ほどしかありませんでした。このようにお日様次第で集熱量が大きく変化するのですが、室温に大きな変化は見られません。これはエアコンのように室内の空気を直接温めるのではなく、床を面で温める事で室内空気の対流を促し、壁や天井の表面温度を高めて室温を維持する輻射暖房的な方法を行っているからです。次の写真は赤外線カメラで撮影したリビング内の様子ですが、全体に床表面温度が高くなっていることが確認できます。このような状態の時にこの部屋に身を置くと「人をダメにする心地よさ」を味わう事ができるのです。
サンルームの効果
リビングの南側にあるサンルームの熱をリビングに開放する事で室温を上昇させる効果が確認できました。寝室にはびおソーラーの集熱空気は流されていないので、室温としてはリビングよりも-2℃~-3℃低く推移していましたが、寝室の南側に「多目的室」と称する内外の中間領域的な部屋を設けたところ、これがサンルーム的な働きをしてくれて、寝室の室温を高めるのに役立っていました。建築的な工夫で太陽熱を得る手法としてもサンルームは有効と思います。ただし今回のサンルームは無断熱なので、日が沈むと急速に室温が低下しますから、その冷熱がリビングに影響しないようにする工夫が必要です。今回は既存の雨戸シャッターが残してあったので、これを閉じる事で緩和しようと考えました。また夏の日射遮蔽対策も大きな課題であり、来夏に改めて温熱調査を実施して「夏暑い家」が解消できているかを検証したいと思っています。
総評として
びおソーラーを導入した改修工事の結果は、以上のようなところになります。引き渡しから2週間が経過したところで義兄に住み心地について尋ねてみましたが、今までと比べて断然暖かいとの事でした。今回は1階部分のみを改修したので、2階は従来のままですから上下に移動するとその差を強く感じるようです。また北側に位置するトイレ、洗面所の室温が真夜中でも下がっていない事にも感心していました。改修前の「冬寒い家」は「冬暖かい家」に生まれ変われたようです。(松原美樹)