空気集熱式ソーラーで最も重要なこと
びおソーラーの松原です。
新年最初の出張は、クレーム対応になってしまいました。と言っても機器の故障とか、そういった内容ではありません。不具合の状況として鉄筋コンクリート造3階建の建物で、びおソーラーが2階と3階の2系統に分けて設置されていたのですが、この内の3階系統は、太陽の状況に合わせて問題なく運転できているけれど、2階系統は全く動かないという事なのです。ただ「冬」スイッチを「夏」に切り替えると動くという事なので、機械の故障は無いようです。そのような状況から当初は夏と冬の誤配線かと思ったのですが「冬」でも気温が高く、日照条件の良い時には、短時間だけど運転する事があるそうなので、考えられる原因として温度スイッチの取付位置に問題がある可能性が高いと思いました。
集熱温度と運転時間
空気集熱式ソーラーで最も重要なのは、集熱温度を早く感知して、できるだけ長い時間、集熱空気を取り入れる事です。次のグラフは「夏暑く、冬寒い家」の改修後の実測データからの抜粋ですが、お日様によって得られる集熱温度は、正午をピークとする放物線を描きます。びおソーラーのファンは温度スイッチの感知により集熱温度25℃以上で運転を開始し、20℃以下で停止するので、下のグラフでは午前8時~午後4時半頃までの8.5時間運転していた事がわかります。また暖房に有効な熱量として40℃以上の集熱がどれくらいの時間有ったかが重要になるのですが、下の例では午前9時頃から午後3時過ぎまでの約6時間、高い温度の集熱が得られていた事が読み取れます。十分な暖房熱量を得るためには40℃以上4時間の集熱運転をして欲しいところですが、お天気次第のものなので、なかなか条件が揃いません。6時間というのは相当に良い日照条件であったと言えるでしょう。
今回の現場では、この運転時間が極端に短く、集熱パネル内の温度が上昇していたとしても、温度感知が出来ないためにファンが運転しない状態が続いているという事になります。
温度スイッチの位置
下図は本物件の集熱面の納まりで、RC造3階建て住宅の屋上に鉄骨で架台を組んで集熱パネルを設置しています。温度スイッチは早く集熱温度を感知して運転を開始させるために図のように集熱パネルの内部に設置する事にしていました。
しかし実際には集熱パネル内ではなく、パネル外のダクト接続口の脇に取付けられていました。集熱パネルが日射を受けると内部で熱い空気が作られますが、ファンが動き出すまでは自然に対流する程度の空気の動きしかないので、写真の位置では熱い空気に触れることが出来ません。
集熱パネルのダクト接続口内に手を入れるとすごく熱くなっていましたので、温度スイッチをこの中に移設すると、たちまちファンは動き出しました。天気が良くても動かなかった原因は、ここにあったという事です。
たったこれだけの事なのですが、このせいで3階は温く温く、2階は冷え冷えという大きな差が生まれていました。次の日にお施主様から「午前9時頃から動き出した」との連絡をいただいたので、一応問題は解決したと言えるでしょう。
温度スイッチの位置が大切という事は、施工指導の時に念入りに説明しているつもりですが、残念ながら十分に理解されていなかったという事だと思います。今回は同じ家の中に2台のファンが設置されていて、動きに違いがあったので、お施主様が異常に気づくことができましたが、もし1台だけだったら「びおソーラーなんてこんなものだ」で終わっていたかもしれません。ひょっとすると全国各地に建っているびおソーラーの家の中にも同様の状況のものがあるかも。これまでに温度感知が上手くできなくてトラブルになった事例を挙げてみます。
温度スイッチの悪い設置例
症例①:一年中ずっとファンが回っているようだが、床吹出口から風が出てこない。暖かさもほとんど感じないが、びおソーラーとはこんなものなのか?
調査結果:集熱パネルのダクト接続口が開口されておらず、パネルと室内がつながっていなかった。温度スイッチの取付位置も悪い。
対応方法:ダクト接続口の断熱材を切り取って開口させ、温度スイッチをパネル内に移設した。これにより適正に集熱空気が室内へ取り入れられるようになり、温熱環境が劇的に改善された。
症例②:「冬/夏」の切替えに関係なくファンが回っている。機器が壊れているのではないか?
調査結果:温度スイッチが集熱空気流路内に設置されていかった為、適切に温度感知が出来ていなかった。
対応方法:ファン、電動ダンパーを一時的に取り外し、集熱パネルのダクト接続口付近に温度スイッチを移設。これにより適正な運転が行われるようになった。
症例③:天気が良い日なのに正午を過ぎてもファンが運転しない。機器の故障ではないか?
調査結果:温度スイッチが上の写真のようにダクト接続ボックス底部に設置されていた。以前の仕様ではパネルのダクト接続口に温度スイッチをぶら下げるように取り付けてもらっていたのだが、本件ではケーブルの結線後に位置を確認しなかったようだ。このようなトラブルを無くすために現在は、温度スイッチをパネル内部にマグネットで固定する方式に変更している。
対応方法:写真の赤と青の線は、温度スイッチを集熱パネルのダクト接続口まで引き上げるためのものなので、これにより適切な位置に再セットした。
過去にはこのような失敗例がありましたが、現行仕様になってからはほとんど聞かなくなっていました。ですから今回のトラブルについても仕様通りの設置方法であれば起きるはずのない事象と思っていたのですが、思い込みは禁物ですね。「びおソーラー」と呼ばれるようになるずっと以前のマイコンで制御していた時代には、集熱温度センサー設置位置による検知不良をカバーするために、運転開始設定温度に近づいたら数分間ファンを回してパネル内の空気を動かし、温度センサーに検知しやすくさせるなんて姑息な事もやっていました。しかし「マイコンは使わない」と決めてからは、あれこれ試行錯誤しましたが、現在の設置方法が最も合理的と思っています。このソーラーシステムが、どういう理屈で動いているのかをしっかり理解してもらえれば、何をすれば良いのかは自ずとわかるはず。「冬」と「夏」の温度スイッチは「びおソーラーの頭脳」なので、適切な判断が下せるように正しく設置して下さい。(松原美樹)