キャンバスのように使う家(長野)

住まいはいったい、いつ「完成」するのでしょうか。竣工・引き渡しはそのひとつの目安であるかもしれません。けれど、竣工したときの建物はキャンバスのようなもので、そこに生活という作品が彩られることで、はじめて完成といえるのかもしれません。そんなキャンバスのような、家と暮らしをご紹介します。

「家は、買うものではなく、つくるもの」と、よく言われます。出来合いのものを買ってくるのではなく、自身が暮らすための建物を、住まい手が、つくり手といっしょになってつくるのだ、ということです。
では、その「つくる」は、いったいいつ終わるのでしょうか? 法的には、お引渡しを行い、つくり手から住まい手に家が渡されたところで、住まいは完成、と見るのが一般的です。
もちろん、ハードウェア、器としての住まいはそこで一旦の完成を見るのですが、主役はあくまで住まい手です。住まい手が、その器に自分の生活をうまく盛り付けていくことで、住まいは完成に近づいていくのではないでしょうか。
この家は、住まい手がキャンバスに自由な絵を描くように、日々の生活で彩られていっています。
あとからでは難しいような、建物の配置、どの方向に開口部を開くのか、あるいは閉じるのか。冬の厳しい寒さ、夏の日差しを明確に遮るための場所と、一方で自然との区切りをあえて曖昧にしたグラデーションを持った場所―そうした、場所のプランニングは最初に明確にしておきながら、住まい手が暮らしながら変化させていけるところには、大きな余地を残しています。

北信五岳に開いたリビング。壁や天井は表しの合板を自由自在に使っている。(引き渡し前の様子)

この家の北西方向には、妙高山、斑尾山、黒姫山 、戸隠山、飯縄山の5つの山からなる「北信五岳」が連なっています。家の北西というのは、閉じてしまうことが多い場所ですが、風景を活かすために、あえてその方向に開口部を設けています。びおソーラー、薪ストーブ、おひさまのダイレクトゲインや通風といった自然の力を活かすことを楽しみながら、日々の生活を描けるような場所になりました。


この家の設計・施工をされた椿建築所は、長野の風土を理解しながら、その在り様を取り入れ、融通無礙に建築を楽しんでいる工務店です。
写真の広くて大きなダイニングテーブルはキッチンとの距離も近く、できた食事をすぐに並べるなど、使い勝手が良さそうです。

建物入口から客間、母屋に繋がる土間スペースは下足を脱ぐ玄関と収納も兼ねており、アウトドアを旨とする住まい手一家にとって動きやすい中間領域として機能しています。
年月と共に味わい深くなっていくこの家と共に、びおソーラーも快適な暮らしの一助として、動き続けます。

Y様宅へ訪問した日は絶好の秋晴れ、でも外は少し強い風当たりの中にヒンヤリした感触があります。出迎えてくれた住まい手のY様からは開口一番、「びおソーラー、いいですね。家から帰ってきた時に、ホッと温かさを感じます」と嬉しい感想をいただくことができました。家の中にお邪魔すると、確かにニュートラルな、丁度よい温かさを感じます。天日に干したお布団のような、びおソーラー独特の空気感です。

リビングの中央には、料理用のオーブンを備えた薪ストーブが据えられています。
「近隣も薪ストーブを使われている方が多いのですが、ウチの薪の消費量を教えると、なんでそんなに少ないの!? ってびっくりされる方が多いんですよ」
びおソーラーには、太陽熱で温められた外気を床下に蓄え、建物の温熱環境を底上げする効果があります。自然を使った蓄熱効果によって、暖房に要するエネルギー量にも差が出ます。

今回の建築では、びおソーラーのオプションとして用意されている電動ダンパーを用い、建物上部に集まった暖気を床下に降ろす「室内循環」機能を使うことで、火の暖かさを1階に戻し、温度が均一になるようにしています。

「薪ストーブを使うと、2階部分にどうしても熱が籠もってしまう。家の中を均等に温めるという意味で、(オプションの)室内循環が役立つと思いました」(佐藤慶一さん / 椿建築所代表)

びおソーラーの「室内循環」機能
天気がよい昼間は、ソーラー用電動ダンパーが開き集熱取入れを行い、日が沈み温度が下がると、ソーラー側が閉じて室内循環用電動ダンパーが開き、循環運転に切り替わります。


設計・施工/株式会社椿建築所